相続法の解説 民法892条 推定相続人の廃除

相続法の解説 第10回

(推定相続人の廃除)
(推定相続人の廃除)
第八百九十二条 遺留分を有する推定相続人(相続が開始した場合に相続人となるべき者をいう。以下同じ。)が、被相続人に対して虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき、又は推定相続人にその他の著しい非行があったときは、被相続人は、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求することができる。

民法891条が被相続人の意思と無関係に相続人資格がなくなる場面を規定しているのに対し、この条文は被相続人の意思で、相続人資格を奪うものです。
しかし、単に嫌いだからというわけにはいかず、
「被相続人に対して虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき、又は推定相続人にその他の著しい非行があったとき」
で、
かつ
「家庭裁判所に請求することができる。」と規定されています。
つまり、この条文に該当する事実があったと家裁が認めた場合ということになります。

なお、相続人資格の剥奪の対象者は、「遺留分を有する推定相続人」と規定していますのは、兄弟姉妹(またはその子)が相続人になる場面以外のことを指しています。

※遺留分というのは、相続させない旨の遺言があるなどしても、最低限取得できるべき金銭を指しており、配偶者、子(亡くなっている場合はその子又は、その子も亡くなっている場合は、さらにその子・・・)、子・・・がいない場合は、両親等直系尊属が遺留分権者と規定されています。(遺留分は法定相続分の半分)

兄弟姉妹が相続人になる場合、兄弟姉妹には遺留分が認められていませんので、廃除の手続きをせずとも、遺言などで、ほかの人に全部相続させたとしても、兄弟姉妹は文句が言えません。

一方で、子などは、遺留分権者ですので、遺言で他の人に相続させようとしても、遺留分の請求ができてしまいます。
そういった場合に、虐待などをした人から遺留分資格を奪うために、この条文があります。
ですので、廃除の場面というのは、遺留分を封じようするという意味があるのです。

「虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき」
家族的関係を破壊するレベルを指しています。

これに当たるとした事例は、「玄関ガラスを割ったり、放火して脅した事例」、「一人暮らしの被相続人の近所に住みながら、全く面倒を見ようとせず、早く死ねなどと罵倒したりし、被相続人は、叩き殺されてしまうと怯えていたという事例」があります。

これに当たらないとした事例には、「嫁と舅の不仲などで別居し疎遠となったっ場合、見舞いをしなかったという事例」「別の推定相続人に対し侮辱したが、原因が被相続人にあることからする一時的な所業と判断された事例」などがあります。

「著しい非行」
「賭博を繰り返して多額の借金を作って、被相続人に支払いをさせ、愛人と同棲して妻子を顧みなかった事例」
「学業を放棄し、些細なことで家族に当たり散らしたり、脅迫して金銭請求を強要したり、仕事につかず浪費していたという事例」
などがあります。

いずれも、これは相当ひどいと思われるような場面で、裁判所はようやく認めていますので、そう簡単には認めないという実態があります。