相続法の解説 民法890条 配偶者の相続権

相続法の解説 第8回

(配偶者の相続権)
第八百九十条 被相続人の配偶者は、常に相続人となる。この場合において、第八百八十七条又は前条の規定により相続人となるべき者があるときは、その者と同順位とする。

配偶者は常に相続人になります。
子がいようが、親がいようが、とにかく相続人になります。
今では当たり前の規定ですが、昭和22年改正前は、子及び子の子・・・がいないときにはじめて、相続人として認められていました。

夫婦の財産は、どちら名義にするかというのは形式的なところもあり、円満な家庭生活が続いている限りは、どちら名義でも生活にはあまり支障がないことが多いです。また、いずれかの名義によっているとしても、資産形成全体としては夫婦が協力して形成させたというところが大きいでしょう。

ところが、一方が亡くなるとそうもいかず、適切にその権利が引き継がれなければなりません。
これは死別ではなく離婚のときを考えてみますと、離婚のときは財産分与によって精算させようとしていますが、もし改正前民法のままであるなら、死別のときは一切もらえませんということになってしまいます。
ですので、死別のときと離婚のときとを比べて、あまりおかしなことにならないように精算を行えるように配慮されたという性質があります。

「配偶者」

配偶者というのは、婚姻届けを出しているということを指しています。
ですので、内縁関係にある方は相続権が認められていません。
先に説明しました離婚と比べますと、明らかにおかしな点ではあります。
というのも内縁が解消される場合には、財産分与請求権(民法768条)を類推適用して財産分与のような形で、財産の移転を求めることが認められています。
ところが、相続の場面では類推適用はされません。

ここから完全な私論ですが、財産分与と相続では、何が違うかというと一方が亡くなるという点ではないかと思います。
財産分与は基本的に双方生きていますので、しかるべく分けることも協議できますが、相続の場合は、当人は亡くなっていて、内縁関係に実際どこまであったのかを判断するのは、周りの方からすると簡単ではありません。
日本は他国と異なり、戸籍制度が極めて充実しています。戸籍があるからこそ、相続関係の証明は容易に可能です。相続の手続きは戸籍制度とは切っても切り離せません。戸籍を見れば、相続人が確定する。極めてシンプルなシステムになっており、亡くなった方が多数出てくる相続関係を証明するのには、戸籍制度を前提とするという社会システムは有用であろうかと思います。
そのような中、戸籍に現れない内縁関係をどう評価するのかは、とても難しいだろうことだろうと思います。
そこで法的安定性を考えると、財産分与の場面と同じように考えるのはなかなか難しいのだろうかとも思います。
内縁に対する相続法改正が行われるとすれば、この辺りの公証制度が整わないと難しいのかもしれません。