相続法の解説 民法886条 相続に関する胎児の権利能力

相続法の解説 第5回

(相続に関する胎児の権利能力)
第八百八十六条 胎児は、相続については、既に生まれたものとみなす。
2 前項の規定は、胎児が死体で生まれたときは、適用しない。

1項
相続人の対象に胎児を加える条文です。
民法3条によりますと、出生によって権利能力が始まるとされています。(権利能力とは、各種権利がその人にくっついいく資格みたいなイメージです。)

民法3条のみですと、胎児は相続人ではありませんが、この条文によって、相続の場面では、既に生まれているとして相続人として扱うということになります。
典型的には、父親死亡直後に出生した場合に、相続人となれないということは不適当であるということで説明されます。

2項
「停止条件説と解除条件説」
停止条件説は、胎児は最初は権利がないのだけれど、生まれたなら、胎児のときにも権利があったこととするというものです。

解除条件説とは、胎児も相続人として認めた上で、死産だったら、それがひっくり返ってなかったことになると読みます。

判例は停止条件説を採用してものがありますが、事例的に救済するにはこちらしか方法がなかったので、一般的に停止条件説といっていいのかは判断されていません。

なお、停止条件説に立ちますと、生まれてからでないと遺産分割協議はできないことになります。実際は、赤ちゃんが協議できるわけではありませんので、法定代理人がすることになります。法定代理人=親権者もしくは親権者自身も相続人である場合は、特別代理人(裁判所で選任してもらう。)が他の相続人と協議することになります。

逆に借金があって、相続放棄すべき場合は、停止条件説に立ちますと、生まれてから3か月以内に相続放棄をすることが可能となりますが、解除条件説によりますと、死亡から3か月以内となって、事実上不可能なことも生じえることから、停止条件説が妥当な気はします。(これは鈴木個人見解に過ぎません。)

なお、登記実務は、形式的には解除条件説に立っており、胎児名義での登記が可能になっています(保存行為として相続人全員名義の登記。)。

ただ、遺産分割はできないと考えられていますので(停止条件説)、胎児個人のものとしたり、胎児が不動産持分をもらわないなどという登記はできず、結局、一時的なものとしてしか登記できません。ですので、積極的に胎児名義で登記申請する例は少ないと思われます。
この論点は、よく見るトピックなのですが、実際に実務で見たことはありません。